続く森のはなし

美味しい果実のなる森が
枯れかけています。

もともとは、
色んな木が生えている森でした。

けれど、誰かが植えた
美味しい果実のなる木の
その果実があまりに美味しく、
森のみんなが望んだので、
その木ばかりが増えるようになりました。

美味しい果実のなる木がとても増えたので、
森はやがてぎゅうぎゅうになりました。
たくさん生えていた他の種類の木は、
いつの間にか、ほとんど
見当たらなくなっていました。

森はぎゅうぎゅうだったので、
木は高く高く伸びました。
木が高くなるほどに、美味しい果実も
高いところになるので、
高く飛べる鳥だけしか
その果実を食べられません。

高く飛べる鳥が競って果実を食べるので、
果実はまだ小さいうちに
全て食べられてしまいます。

一方で森の下の方は、
ぎゅうぎゅうに生い茂った葉で、
ほとんど日が入らなくなりました。

日の入らない森は、
そこで暮らす生き物の数も種類も
減っていきました。

そして日の光や、落ちてくる果実や、
色んな種類の虫などの
土を豊かにしてくれていたものが減ったので、
土が痩せていきました。

土が痩せているので、森の木も痩せ細り、
そして、森は枯れかけています。

森のみんなが枯れてゆく森よりも、
続く森を望んでいるように思えました。

けれど、この枯れかけた森も
これはこれで、今、
みんなが暮らしている森です。
これを焼き払ったり、
むやみに切り落としたりすることは
できません

ある日、旅人がやってきました。

旅人は、この森にしかないという
ある木の実を求めて、
ずっと遠くから歩いてきました。
ようやくたどり着くとそこは、
旅人が思い描いていた姿とは違い、
他のどこの森にでもある
美味しい果実のなる木ばかりが
生えている、薄暗い森でした。

旅人は森の動物たちに尋ねました。
「この森にしかならない木の実を知りません
か。」

「そんな木の実は知らないよ。」
と動物たちは答えます。
誰に聞いても同じ答えでした。

そこへ森の長老が来て、言いました。

「旅の人。その木の実はもう、
森の動物たちにさえ忘れられてしまった。
森の外れの湖の近くを探すといい。
そこにある木が最後の一本だ。」

旅人は動物たちと一緒に、
湖へ向かいました。
他の森で見たことが
なかった木でしたから、
旅人はすぐにその木を
見つけることができました。

「なんだ、この木のことか。」
動物たちは言いました。

「この木の実は美味しくないんだ。」
動物たちは口々に
木のことを教えてくれました。

「けど、子供の頃はよく食べたんだ。」
「栄養はたっぷりだって
お父さんが言ってた。」

「実は少ししかならないから、
大切に食べたんだ。」
「その葉っぱは大きいから、
傘になるんだよ。」
「木の皮は柔らかくて、
寒い冬には体に巻きつけたんだ。」
「春にはとてもきれいな白い花が咲くんだ。」

「美味しくないんだけど、
たまに食べたくなるんだよな・・・」

「そういえば、最近は見かけなくなった
な・・・」
動物たちは
すこし寂しそうな顔をしました。

その木に近寄ってみると、
木は枯れかけていました。
「ああ。あの木の実は
もう食べられないのか・・・」
動物たちは
とても悲しそうな顔をしました。

「見てごらん。」
旅人が茶色くなった木の実を手に取ると、
中には種が入っていました。
旅人と動物たちは、
森の外れにその種を蒔くことにしました。

みんなで、土を耕し、
種を蒔き、水をやりました。
やがて芽がでると、
交代で世話をしました。

何年かして、その木は
小さな白い花をつけました。
そして、初めてなった懐かしい木の実を
動物たちはひとつだけ取って、
みんなで分けて食べました。
残りの木の実は熟して落ちて、
木の周りに新しい芽を吹きました。

旅人は種をひろって、森の反対側の外れに
その種を蒔きました。

旅人は「また戻って来るよ。」と約束して、
種を少し持って旅に出ました。
旅人が去った後も、
森の動物たちは木を育て続けました。

やがて、白い花を咲かせた木が
森の周りを囲うほどに増えた頃、
森の真ん中にあった
美味しい果実のなる木は、
枯れてしまって、ほとんど
見当たらなくなっていました。
その果実を競って食べていた
高く飛べる鳥たちは、
別の森へ飛び去っていきました。

ちょうどその頃、旅人が旅先で出会った
仲間を連れて、森へ戻ってきました。
旅人と仲間は森の動物たちと一緒に、
少しだけ残っていた
美味しい果実のなる木の近くに、
他の森で見つけてきた、
白い花と仲の良さそうな
いくつかの木の種を蒔きました

あれから何年がたったでしょうか。
森は、白い花の木を中心に
様々な木や花に彩られ、
すっかり生まれ変わりました。

それは動物たちにとって、
新しく、懐かしい森でした。

今では、おとなも子供も大勢の仲間が、
森へやってくるようになりました。
みんな白い花の種を少しだけ分けてもらい、
お返しに、別の木の種を森に蒔いていきました。

あの木の実は相変わらず、
それほど美味しくはなかったけれど、

動物たちは、この森がずっと続くように願いました。
旅人は、この森はずっと続くだろうと思いました。

続く

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